居酒屋「友よ」に米を忘れた話
スーツ姿でクマのぬいぐるみを左脇にかかえ、駅まで歩いた。
駅の改札手前にはランナー?と思われるような派手な衣装を着た人たちが大勢集まっている。
その団体の前を通り抜けたが改札には行かす、また来た道を戻ることにした。
その時、ぽつりぽつりと雨がふってきた。
もう一度その団体を通り抜ける際、ちらっとブラジル国旗のようなものが見えた。どうやらランナー達ではなく、何か別の集まりのようだ。
いつも渡る踏切へ向かって歩くと、右手に見たことのない踏切を発見。
近道になると思い、その踏切へと右折し、踏切の手前まで行くと遮断機だと思っていたものは遮断機風の鉄柵だった。
「うわ、行き止まりか…」
その鉄柵の手前左に電話ボックスがある。中を覗くと黒電話?とても古い電話ボックスだった。恐らく壊れていて使えないだろう。
と、そのすぐとなりに今風の電話ボックスがあった。
「やはりそうか。」
線路を渡ることができないので引き返そうとしたその時、右側から突然長身のすらっとした女性が表れた。
「え?どこから出てきたんだ?」
と女性を見ると、鉄柵に向かって何かを待っているかのように立っている?
「おいおい大丈夫か?この人?」
と思っていると、私とその女性が立っている鉄柵前の地面が私たち毎浮き上がった。
「えぇ!どうなってるのこれ?」
と女性をみると全く動じない。。むしろいつもの感覚というか平常心という印象。
その地面はゴォ~ッと浮き上がり線路の向こう側にあるビルの高層階の前でぴたりととまり、静かに壁面へ接地した。
「こんなビルあったか?」
と思っているやいなやビルの壁面が開きそこへ電車がきてドアが開いた。
仕方ないので、その女性とともに車内へ入った。席に座った人達がこちらを見ている。
「この電車は一体どこまで行くんだ?」
という不安が頭をよぎり、次の駅ですぐに降りた。改札らしきものはなく、暗くて細い通路が一本あるだけ。
仕方なくその通路を通り外へ出た。
辺りは真っ暗、いつの間にか夜になっていた。そして、気がつくとぬいぐるみが10kgの米袋にかわっていた。
辺りを見渡すと前方にうっすらと赤提灯が見える。その灯りに向かって歩くと、それは居酒屋だった。
「とりあえず入ってみるか。」
入り口は地下へ向かう階段だ。
階段を降りて店内に入ると、沢山の人達が酒を酌み交わしている。
入り口からまっすぐ伸びた通路の左側に広間が二つ、右側には小部屋がいくつか並んでいた。
広間をぐるっと周り通路に戻ると「キッズルーム」とかかれた部屋まであった。
通路の壁には
「マラソンの打ち上げにどうぞご利用ください。」との貼り紙があった。
成り行きで店に入ったものの、席にも座らずとにかく家に帰ろうと階段を上り店をでた。
「また来ることがあるかもな。」
と思い、外にある古びた看板をみると、
【友よ】
と書いてあった。
その看板の周りをよく見ると、墓だった。
薄暗い墓に目をやると地面に座り込んで念仏を唱えている老婆の姿が見えた。
「なんだか恐いな…」
気がつくと抱えていた米袋がない。
もう一度店に戻ると店主に
「ここはあなたのような人がくるところではない」
と言われた。
「先ほどここへ来たのですが、米袋を忘れてしまったようで…」
というと、足元に忘れた米袋が置いてあった。
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